君に届けたい星

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君に届けたい星

 届いた星のように輝く砂に、私は幾度もあの約束を想い出す。 「──ハツカはどうするんだ」 「どう、って」 「進路」 帰り道、聞かれたハツカは軽く頷く。高校二年生の夏、そろそろ将来をぼんやり考える頃。早い人間はすでに受験勉強を始めている。 「とりあえず大学行こうかなって、スバルは」 「俺は探検隊に応募する」 「え」 ハツカの反応にスバルは不満そうな表情をした。 「なんだよ、そんなにおかしいか」 「ううん、違う、けど……」  ハツカは首を振った。近い距離にいるはずなのに遠い気がする。 「探検隊、って異星探検隊でしょ? 危ないんじゃないの」 異星探検隊は新しい星を開拓するために、政府が宇宙に派遣する隊で危険が伴う。ハツカにはスバルがそんな決断をするのが信じられなかった。 「俺が頼りないって言いたいのか?」 「そんなこと、違うよ、私はただ」 「違わないだろ!じゃあハツカは俺に夢をあきらめろって言いたいのかよ」 「……」  スバルに問い詰められてハツカは口ごもる。 目が潤んできた。スバルの言う通り、危ないからやめて欲しいなんて夢をあきらめろと言っているのも同然だ。でも。 「ずっと、いっしょにいられるって思ってたのに」  スバルのことが好きだしスバルもハツカを好きだと言ってくれている。付き合っている限り、なんとなく同じ大学に進学すると思っていた。  探検隊に応募して、合格すれば何年も会えない。それだけでなく、生きていられるかも定かではない危険な旅へハツカは恋人を喜んで送りだせそうになかった。シェルターの中にいたって退屈ではないし、外宇宙に出ていく必要があるのだろうか? 「ごめん、先に帰るね」  どうしても受け入れられずにハツカは早足で駆け出す。その日はなかなか寝つけなかった。 再びスバルに話しかけられたのは、高校三年の冬。 「ちょっと、いいか」 「……うん」  一年も話をしていなければ別れたも同然だと他の人は言うかもしれないが、ハツカは不思議と別れた気はしない。おそらくスバルも同じ気持ちのはずだ。短髪の頭を掻いて気まずげながらも真摯な表情をしている。皮肉なことに放課後で、人通りはほとんどなかった。 「探検隊に、合格した」 「そ、っか。おめでとう」 「ああ」 探検隊に合格したということは、別れを告げられてしまうのだろうか。密かにハツカは覚悟する。 「その……去年の夏は悪かった。冷静に考えたらハツカは心配してくれてただけなんだよな、俺がバカだった」 「ううん」 「それでさ、もしまだ俺のこと好きでいてくれるなら待ってて欲しいんだ」 「待つって」 「都合いいこと言ってるの、分かってる。 五年も、あ、五年が探検隊の任期らしいんだけど、五年も待ってろとか俺は強制できない。ハツカが別れてって言うなら別れる、けどこの一年、ハツカ以外とは付き合う気になれなかった」  聞いた瞬間、ハツカはスバルに抱きついていた。話せなかった一年、ハツカだってスバル以外と付き合う気になんてなれなかったのだ。 「待ってる、待ってるから……無事に戻ってきて」 「うん」  スバルはハツカを抱きしめ返す。 「毎年、星の砂を送るよ」 「星の砂?」 「探索する惑星で採取できる砂を送る。 多くは機密の関係で無理だけど少しなら定期連絡の衛星でシェルターに送れるらしいんだ」 「スバルが無事ならそれでいいのに」 「さんきゅ、ハツカ。 手紙は重量オーバーになるんで禁止なんだって、星の砂を代わりにするな」  未知の冒険に瞳を輝かせたスバルは、ハツカに約束を残して春、宇宙に旅立っていった。  ハツカが大学に進学すると、一年に一度、星の砂が届くようになる。あれからハツカにも夢ができた。ハツカは届いたキラキラした星の砂にスバルの瞳を重ねる。この星の砂が届いているのがスバルが元気でいることの証なのだと信じているから。
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