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「こんにちは。高梨恵菜さんでよろしかったですか?」
マンションの入口で後ろから声をかけられて、わたしはどきりとした。そっと振り返ると、背の小さな人物がこちらを見上げていた。メガネをかけてニコニコと笑っているその表情は、子供のようにも見える。服装は紺色の学生服のような上下に、制帽を被っている。中学生かとも思ったが、近くにこんな制服を採用している学校はなかったはずだが。
「そうですけど、どちら様ですか」
「私はヒイロと申します。あなた宛のお届け物をお持ちしました」
彼はそう言うと、肩からかけていたバッグの中から、茶封筒を取り出した。
届け物を持ってきたということは、郵便配達員だろうか。確かに彼の出で立ちを見ると、そう見えなくもない。ただ、今どきの配達員にしては、随分と古めかしい姿のような気がした。
「どうぞ、お持ちください」
わたしは差し出されたその封筒を受け取った。宛先には整った毛筆でわたしの名前が書いてある。しかし、裏返して差出人を確認した時、何かのイタズラだと思った。そこに書いてあったのは、十三年前に亡くなった父の名だったからだ。
「どういうことですか」
わたしはつい、少し強めの口調で聞いていた。イタズラにしてはちょっと趣味が悪すぎる。
「どうと申されますと」
「父はずっと前に亡くなっています。手紙なんか届くわけがないじゃないですか」
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