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「いかがですか?」
猫耳の男は、わたしの顔をじっと見つめて聞いてきた。
「説明してください。この手紙は、本当に父から預かったんですか」
「先程申し上げた通りです」
「父は震災で亡くなっているんです。まさか、死人が手紙を書いたとでも?」
「あなたはどう感じられましたか」
手紙から伝わってくるのは、ずっとわたしの心配ばかりしていた父の姿そのものだった。突然死ぬことになって、辛いのは自分のはずなのに、わたしの方を気遣うなんて。わたしが知る父なら、間違いなくそうするに違いない。
――私達はこれからの恵菜の人生を助けてあげられないけれど、これだけは覚えておいてください。
私達は恵菜の幸せを願っています。悔いのないように、与えられた時間を大切に生きてください。
わたしは猫耳の彼が見ているのも構わず、声を上げて泣いてしまった。
わたしには、父にどうしても届けたい言葉があった。別れが急すぎて、伝えることが出来なかった言葉だ。
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