サイマーフェス

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サイマーフェス

8月16日土曜日、15時。 気温は32℃。かなり蒸し暑いが、幸い晴れてきれいな青空が広がっていた。野外で長時間立つ以上、天気は重要だ。 私は予定通り、本日さいたま市で行われる『サイマーフェス』に参加するため、京浜東北線で大宮駅に向かい、そこからバスで会場へと足を運んだ。 フェス自体は12時から始まるのだが、入退場自由なので、私と大学時代の友達は、お互いのファンである『ナツノヨル』が登場する16時少し前に会場に入ることに決めていた。何しろこの音楽フェスは国内最大級のイベントのため、本当に沢山の人々が来場し、押しつぶされそうになるくらいの密集度が予想される。加えて音楽好きな男女の猛烈な熱気には、まあまあ明るい方である私も、さすがに雰囲気的についていけそうにない。だから最低限の参加に(とど)め、余計なストレスを回避したかった。ちなみにフェスは夜の20時まで続き、私たちは終わりまで楽しむ予定である。 15時40分になり、私と友達はチケットを係員に渡し、ゲートを通って屋外の広場へと歩いた。会場内では既にとんでもない人数の男女が、アーティストの音楽に合わせて歌ったり踊ったりして盛り上がりを見せていた。やはり20代以下の若者が多く、男女の割合は女性が7割といったところか。今回は男性アーティストが多い点が関係しているのだろう。昼間の野外フェスでは、定番アイテムであるペンライトや光るマラカスを使う必要はなく、みんな手を振ったり体を左右に揺らしながら精一杯応援していた。 「ふう、凄い人だね。とりあえずナツノヨルが出てくるまで、他のグループの歌を聴いてよっか」 「うん、そうだね」 何とか定位置を確保した後、友達の山代依未(やましろつぐみ)が、私に小声でそう伝えた。 彼女は23歳だが、6月生まれなので同級生である。石川県加賀市出身で、お互い地方出身者で音楽の趣味が共通していることもあり、大学1年生から仲良しだ。 髪型は黒のボブヘアで、顔は私と同じく童顔。背は154cmと私より少し高いくらい。性格はしっかり者で、優柔不断な私にとっては頼りになるお姉さん的存在である。
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