サイマーフェス

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依未と書いてつぐみは、今の赤ちゃんのネームとしてはメジャーだそうだが、2002年・2003年生まれの同世代では珍しい。が、彼女はこの漢字の組み合わせを気に入っている。ちなみに"(つぐみ)"は鳥の名前だ。 私と依未は、お目当てのひとつ前の女性シンガーソングライターの歌を聴き、他の観客と同じように手を叩いて盛り上げ、音楽フェスのムードを味わった。 そして時刻は16時を回り、2人のファンであるナツノヨルが登場した。彼らは20代半ばの男性4人組で、今人気絶頂のバンドである。 「皆さん、こんにちは♪ナツノヨルでーす!今日はこんなに大勢の方が僕たちのために集まっていただき、サイコーに嬉しいでーす!そんな大好きな皆さんのために、僕たちからのプレゼントです。聴いてください、ナツノヨル1stシングル、『ホシノカガヤキ』」 ナツノヨルのボーカル『ナノ(nano)』が、持ち前の明るさで観衆に向けて元気よく挨拶し、盛大な拍手が起こった。そしてすぐに演奏が始まり、私と依未は嬉しそうに目を合わせた。 「♫キミの瞳は 星の光のように〜♫……」 歌は進み、マイクを持ったナノが空を仰ぎ、きれいな歌声で最初のサビを披露(ひろう)した、まさにその刹那(せつな)だった。 ドーン!!!! 「きゃああああ〜!!!」 「うわああああ〜!!!」 時刻にして16時3分。 突然、会場の演奏スペースからとてつもない大きさの爆発音が鳴り響き、周りの男女が次々と悲鳴を上げ、私と依未以外の人々が一斉に血を流してバタバタと倒れ始めた。 「え!?」 私は何が起きたのか全く理解できず、震えが止まらなくなり、ただその場で同じ心境の依未と抱き合うしかなかった。 足元を見ると、自分の靴が他人の血で赤く染まっているのがわかる。服にも血が飛び散っている。ああ、白いブラウスが台無しではないか。 こうして、サイマーフェス会場は一瞬にして"血の海"と化したのだ。 これが、燕がやらかした"大規模爆破"だとは、この時は夢にも思わなかった……。
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