疑惑

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疑惑

1             退避 16時15分。 サイマーフェス会場で大爆発が起き、犯人の『ケーララの赤い雨』が声を変えて挑発的な犯行声明文を読み上げ、わざとフランダースの犬の主題歌を流した一連の事件。私はそれらに対して当然怒りを抑えられず、先ほど犯人に向けて決意した通り、趣味であるミステリー小説から得た知識を活かして、必ず奴の正体を突き止めようと意気込んだ。 数分が過ぎ、私と依未が1万体以上あると思われる無惨な"死体の海"の中に黙って立っていると、見知らぬ男性が3人近づいてきた。そしてそのうちのひとりが警察手帳を見せ、声をかけた。 「埼玉県警察の塩見(しおみ)です。近隣の方の通報を受けて駆けつけました。とんでもない規模の爆発が起きましたね。何やら事件じゃないかと。16時3分頃、埼玉県警宛に『ケーララの赤い雨』と名乗る人物から、挑戦状のような音声を録音した小型マイクが届いたそうです。それを聞く限りでは、サイマーフェス会場を特殊爆弾で爆破したと。正直イタズラかと思いましたが、まさかこんな大惨事になっていたとは。あなたがたは無事でしたか?」 あり得ない光景に驚く塩見刑事は、恐らく30代後半くらいと思われる。短髪で優しそうな印象を受けた。 あの爆発音はハンパなかったからな、やはり通報されていたか。それなのに近くにいたはずのスタッフやアーティストも全然様子を見に来ないから、みんな亡くなってしまったのだろうか。きっとナツノヨルも……悔しい。くそ、犯人め! 私がそんなことを思っていると、塩見刑事の質問に、(おび)えが酷かった依未が答えた。 「はい、無事です。私と彼女は無傷です。なぜか2人とも助かりました。それはよかったのですが、これだけ大勢の人が血を流して倒れていて、本当に怖くて……。未だに何が起きたのか、よく把握できていません。刑事さん、これはテロですか?社会への復讐とか言っていましたが、犯人は一体何がしたいんでしょうか?」 依未は自身と私の無事を伝えた後、刑事に犯人の目的を逆に質問した。
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