疑惑

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彼女は爆破事件勃発(ぼっぱつ)後、人が変わったように臆病になってしまった。もちろんこんな異常事態だから仕方ないのだが、普段の彼女はもっと頼もしいため、私には違和感がある。 「テロ程度とは次元が違います。まだ確認もできていないが、死者の数が尋常じゃない。こんなことが現実に起こるなんて、我々警察も信じられないんだ。犯人が何を企んでいるかは、これからじっくりと捜査を進めていくうちに解明するさ。とにかくあなたがたが生存してくれていて、まともに会話ができてよかった。ここではなんだから、警察署で詳しい話が聞きたい。事件の被害者として、署まで来ていただけませんか?パトカーは会場の外に駐めてあるから」 塩見刑事はそう言って、私たちを犯行現場から一刻も早く避難させ、警察署で事情を聞く意向を示した。私と依未も、地獄の空間から早く退避したく、目を見合わせて頷いた。 その後、私たちは無数の死体を踏まないように足元に気をつけながら、屋内施設に入った。施設内でもスタッフと思われる血を流した死体が点々と横たわり、爆発の悲惨さを物語っている。私は現実から目を背けたくなったが、事件の全容を把握して推理に役立たせるためにも、しっかりと被害状況を知り、映像を脳裏に焼き付けておく必要があった。 外に出た私の目に映ったのは、会場に続々と到着した救急隊員が、死体や負傷した人を運ぶ様子だった。犠牲者数の多さを考えると、近隣の病院だけではとても対応しきれないのではなかろうか。 私たちは不安を感じながらも塩見刑事の指示に従い、パトカーの後部座席に乗せられ、警察署へと向かった。
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