疑惑

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刑事の言う通り、こんなに手の込んだ犯罪を遂行する犯人が、自分たちだけを助けて、わざわざ容疑者扱いされるようなミスをやらかすはずがない。私が疑われていたと感じたのは、どうやら早とちりだったようだ。 そうか。 第三者から見れば、このケースでは"生存者の身近にいる人間"が怪しいということになるのか。どうやって私と依未だけを救ったのかは全くわからないにしても、確かに奴の正体が、私か彼女どちらか一方、あるいは共通の友人や顔見知りであるという可能性が浮上してきた。 当然そんなことがあってほしくはないのだが、私は無意識に自分の周りの人間で、音楽フェスに行くことを伝えていた人物の顔を思い浮かべ、それを刑事に話した。 「えっと、まず家族です。両親と姉は知っています。あと大学時代の友達が数名と、同僚の仲のいい男子と女子が何人かいるかな」 「ふむふむ。で、その知っている人たちのお名前を……」 「塩見刑事!」 私が事件の参考人として事情聴取を受けている最中、それを(さえぎ)るように若い刑事が取調室に入ってきた。 「何だ?聴取中だぞ」 塩見刑事が部下を叱ると、若い刑事は焦りながら要件を伝えた。 「犯人から…『ケーララの赤い雨』から、また音声で挑戦状が届きました。録音はもう終わりましたが、今度はなぜだか"謎解き"を提示してきまして。事件解決の重要なヒントになるのではと思い、お話中申し訳ございませんが、お伝えにまいりました!」 若い刑事は自衛隊が敬礼するように、曲げた右腕をおでこに当て、上司である塩見刑事に敬意を払った。そして、彼にテープレコーダーを手渡した。 「わかった。ご苦労。もういいぞ」 「はっ!」 塩見刑事はテープレコーダーを受け取ると、部下を部屋から出るように命じた。やはり警察の世界も、上下関係がはっきりしているのだと、彼らのやり取りを見て感じた。 「このテープに犯人の声が録音されているようだね。龍造寺さんにも聴いてもらうけど、いいかい?」 「はい、聴かせてください!」
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