詮索

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「もうすぐお盆休みだね。今年は9日から17日まで9連休になるんだって!高速道路とか大渋滞しそうだね」 私は嬉しそうに、ニッコリとした笑顔を彼に見せた。 「ああ、そうだな。新幹線とか飛行機も、予約で満席の繁忙期だろう。わざわざ値段の高い時にご苦労なこった。俺は日本のうだるようなジメジメした夏が嫌いだから、お盆はクーラーのきいた部屋で涼みながら、"福スケ"とのんびりと過ごすよ」 同僚男子は、同じく笑顔でそう返した。 彼の名は石動燕(いするぎつばめ)。富山県小矢部市出身で、農業大学への進学を機に上京した。小矢部市にある唯一の鉄道駅は石動駅で、彼の苗字の由来だそうだ。ちなみに"燕市"は新潟県にある市だが、それとは関係なく、鳥のツバメが名前のルーツらしい。 身長が180cmと非常に高く、私との差は実に30センチもあり、並んで歩いていると大人と子どものようである。髪は少し長めで、透明なクリアフレームのメガネをかけている。目が大きく、美青年というワードが似合うイケメン。声もカッコいい。 燕は数学と理科が大の得意な理系であり、機械にも詳しいのが取り柄だ。それに動物愛好家で、ペットであるの福スケを可愛がりしている。品種はポメラニアンで、色は白。 「ふふ、燕は福スケのことがホント大好きだよね。写真を見せてもらったけど、確かに可愛かった。この会社に入ったのも、どんなエサがペットの健康に繋がるか研究するためなんでしょ?」 「まあな。人間の食べ物が時代とともに変化していくように、ペットフードもどんどん質のいいものに改良されていってるからな。大学で習った生物の専門知識を武器に、犬猫や鳥たちに愛される新食品を生み出していきたいんだ」 そう言って、燕は得意げにメガネの右レンズを押し上げた。彼は希望通り商品開発部門に配属され、積極的に企画案を立てるなど新人らしからぬ活躍で、上司からの評判もいいようだ。私は生き生きと夢を語る彼の顔を見て、自分もこれからの長い社会人生活を、目標を持って過ごしていかなければと感じた。 話題は変わり、燕が私にお盆休みの予定を尋ねた。 「お盆中、桜みらいはどこか出かけるのか?」
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