動機

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私と同世代で、女性が多い。未来を担うはずの若者が、こんなに大量に亡くなってしまい、日本、いや世界中が衝撃を受け、悲しみに暮れている。 それどころか犯人は私の同期で、信頼もしていた友達だった。普段の石動燕は、このような恐ろしい犯罪を平気で引き起こす悪魔には、到底見えないのだ。 人間、誰しも"裏の顔"がある____。 よく聞くフレーズではあるが、普段のイメージとギャップがあり過ぎて今でも信じられない。 一体、どうなってるんだ? 私が泣きながら頭の中で事件の被害を振り返り、優しい燕の姿を思い返していると、奴が変わらず笑みを浮かべたまま、自らの過去を語り始めた。 「そうだよな。なんでここまでのことをするのか、探偵としても同期としても知りたいよな。桜みらいだけじゃなく、会社の人たちにも話したことはないんだが、俺の両親は離婚していてな。父親も母親もいわゆる"ネグレクト"で、俺は育児放棄されていたんだ。それで幼稚園に入るあたりから親戚の家で育った。だから両親の顔をまともには覚えていない。その複雑な生い立ちが、俺の性格が歪み始めた原点ではある。責任を果たさなかった親に対しての恨みもあるが、今では奴らにも事情があったんだとプラスに解釈するようになったよ。俺が人を信用できなくなったきっかけ……それは中学高校時代の"壮絶なイジメ"さ。当時は今思い出しても吐き気がするような、地獄の日々を延々と送っていたんだ」 奴は両親の離婚とネグレクトを打ち明け、そこが殺人計画に深く関わっているとしながらも、主たる理由は過去のイジメだということを、初めて私の前で告白した。そしてイジメという単語を出した途端、憎悪に満ちた、恐ろしい顔つきに変わった。 私は初耳なことばかりで正直びっくりしたが、続きを聞くために質問をした。 「ネグレクトは虐待の一種よね。辛い思いをしたのね。それにイジメまで……どんな内容だったか、聞いてもいいかしら?」
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