詮索

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「あ、そういえばまだ言ってなかったね。私、8月16日の土曜日に、大学時代の友達と"音楽フェス"に行くんだ。好きなバンドがいてね、何曲も演奏するからいっぱい聴けるのが楽しみなんだ!」 「音楽フェス?有名なアーティストやバンドが野外で歌ったり楽器を演奏したりして、それを聴くために人がたくさん集まるイベントのことか。どこでやるんだ?」 「さいたま市の会場だよ」 「さいたまか。なんていうフェスだ?」 「え?『サイマーフェス』っていう音楽祭だけど。毎年夏(サマー)に埼玉で開催されるからさ、2つをかけ合わせて名付けたんだと思う」 「ふーん、そういう造語なのか。混むんじゃないのか?どれくらいの人間が来場するんだ?」 「相当大規模なイベントだからね。去年は確か1日で2万人以上動員したって、ネットに書いてあったな」 「凄い数だな。桜みらいが好きなバンド名は?」 「『ナツノヨル』だよ。ねえ、めっちゃ質問してくるけど、もしかして燕も行きたいの?でも今からじゃチケット取るの厳しいと思うよ?」 私は燕が音楽フェスについて妙に詮索(せんさく)してくるので、不快ではなかったが違和感を覚えた。 「いや、そういうわけじゃないんだ。質問攻めになってしまったね、ごめんごめん。暑いし、人が密集するだろうから事故のないように気をつけてくれ」 「うん、ありがとう。楽しんでくるよ。フェスの写真、終わったら送るね!」 「おう」 燕は私に不審に思われたのを察し、慌てていたが、すぐに優しい気遣いをしてくれた。それが嬉しくて、私はまた笑顔になった。 だが、この時の私にはまだ想像もできていなかった。 目の前でパスタをすすっている同期の石動燕が何を抱え、何を企んでいるのか。そして来週末に足を運ぶ音楽フェス会場が、一瞬にして凄まじい光景になる____そんな悲しい未来なんて……。
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