カタストロフィ

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カタストロフィ

           1           死の誘惑 俺は泣き出してしまった桜みらいから目を逸らし、真っ暗な空を見ながら、今までの自分の人生を振り返った。 親を知らない幼少時代。 思春期の壮絶なイジメ。 社会人になってからは、上司からの叱責や同期の嫌がらせ。 22年間、ロクなことがなかった。 桜みらいには話さなかったが、先日上司に提案した新しいペットフードの企画が真っ向から否定され、自信作を却下された俺は、働くモチベーションも著しく低下していた。 勉強を頑張ったり、趣味に打ち込んだりもしたが、過去のトラウマは簡単には払拭(ふっしょく)できず、社会や他人への恨み、死に対しての憧れ、自殺願望も消えることはなかった。 誰も信用できる人間はいなかった。自分を除き、すべてが敵だ。少なくとも法律上では、"自分以外は他人"である。血の繋がった親でも兄弟でも、危害を加えれば罪に問われる。 しかし、"自殺"はこの国では犯罪には当たらない。そして未遂で終われば、俺は間違いなく警察に逮捕されてしまう。つまりすべての罪と動機を告白し終わった今こそ、何もかもを終わらせるベストタイミングなのだ。確実に死にきらなければ。 もう何の悔いもない。 当初の予定よりも遥かに多い、1万2000人以上もの虫けらどもを、自分の"拡大自殺"に巻き込むことができたのだから。彼らにとっては理不尽な死でも、俺には大いに意味がある。その大量の命の喪失は、社会を震撼させるためには必須であり、大事な"犠牲"だったのだ。 計画を提案し、下準備を着実に行ってくれ、最後はこんな腐った俺を擁護してくれた、"相棒"のでっせの悪オヤジには心底感謝している。これで俺も、安心して福スケの元へいけるだろう。 そして、龍造寺桜みらい。 小柄で童顔の君は、そのツインテールの髪型がキュートで、10代後半にも見えるけど、結構しっかりしているよな。探偵並の推理で、数字パズルを解いたり、ボロを出させるようにさりげなく誘導したり。絶望して狂った俺にさえ、命の大切さや犯罪の愚かさを訴えかけ、涙を流して真剣に叱ってくれたもんな。偉いよ、君は。 人間は大嫌いだけど、君だけは"特別扱い"する。
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