カタストロフィ

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こんな悲しい話、あり得るのだろうか。 あまり意識はしていなかったが、私はやはり燕のことが好きだった。彼の笑顔は爽やかで、好印象だった。 その燕も、実は私が好きだと、最期に告白した。だが死を選んだ。私の目の前で。 罪を認め、動機は話したが、捕まりたくない一心で、自殺という卑怯な手を使い、反省することなくすべてを終わらせた。 残された私は、どうしたらいい? 同僚の男子が、実は両想いだった相手が、1万2000人以上もの桁違いの人間を殺した。これだけでも十分衝撃的なのに、好きな人の"死ぬ瞬間"を見てしまったのだ。 辛すぎて、(うつ)になる。 "カタストロフィ"。 悲劇的結末としか、言いようがない。 ザアー!! 突然豪雨が降り始め、燕の死体を抱きながら泣きじゃくっている私の身体や髪を濡らした。 雨でびしょ濡れにも関わらず、私にはその場から動く気力さえ残されていなかった。 雨? 即座に、燕がこだわっていたハンドルネームの『ケーララの赤い雨』を思い出した。もちろん今降っている雨は透明で、赤くなんかないが、私の頭の中は、彼と事件に支配されているのだと気付かされた。 私は雨を避けるために何とか公園のトイレに移動し、黒ズボンのポケットからスマホを取り出した。録音機能が付いているアプリを起動し、停止ボタンを押した。 時刻は21時30分。 燕と会ってから今までの30分間、私と奴の会話のやり取りを、スマホで録音していたのだ。多少離れていたので、ところどころ聞き取りにくい部分もあるだろうが、奴が自白したり、動機を語った内容も、すべて音声で保存されている。これを警察に提出すれば、自殺してしまった後でも、奴が犯人である証拠となり、容疑者死亡のまま書類送検できる。遺族は報われないにしても、せめて誰が犯人かは明白にするべきだろう。私の悲鳴や泣き声まで録音されてしまい、少々恥ずかしいが、警察が状況を把握するためにも、この資料は"必須アイテム"だ。 数分後、でっせの悪オヤジに眠らされていた警察官4人が目を覚まし、燕の死体を発見した。先ほど私が呼んだ救急車も到着し、病院に死体が運ばれるのを見届けた。
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