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           1            友情 9月7日、日曜日。 石動燕が関下みどり公園で、私の目の前で自殺したあの夜から3週間が経過した。 私は未だにその精神的ショックから立ち直れず、茫然と日々を過ごしていた。会社にもほとんど行けておらず、行っても昼には体調不良で早退するなど、まともに働けていなかった。俗に言う、"うつ状態"になってしまったのだ。 会社の同僚や上司も、燕がこの無差別大量殺人の犯人であることを当然知っているため、私と同じく精神的に落ち込んで会社を休みがちになっている社員もいる。なので、誰も休む理由を無理に詮索したりはしてこなかった。 日付は(さかのぼ)るが、燕の死の翌日の8月18日、私は塩見刑事に電話で連絡をした。刑事は奴の犯行を知り、謎解きの解読や、録音した音声の提供など、"事件解決に協力してくれてありがとう"と、感謝の言葉をいただいた。私も泣きながら塩見刑事にお礼を言った。刑事が私の身近にいる人間が怪しいと、ヒントを出してくれたことが、結果的に燕を犯人と特定し、奴を追い詰めることに成功したからである。 そして、今日はもう一人の"助っ人"と会い、例によってゼイゼリヤでランチをしている。一緒にサイマーフェスへ行き、大爆発に巻き込まれ、ケーララの赤い雨やズベン・エル・ゲヌビといった難易度が高い用語を調べ、推理に協力してくれた"親友"____山代依未と。 「それで?まだ会社には行けてない日が多いの?」 依未が、注文したコーヒーを一口飲んだ後、私を心配して尋ねた。 「うん。なんか何もかもにやる気を失っちゃって。何をしても楽しくないの。事件と、彼の死に顔が脳裏に焼き付いて、ずっとそのことばかり考えちゃうんだ。辛い。ダメだよね、前を向かなきゃ」 私は正直に、今も燕のことが忘れられず、苦しんでいる状態であると、依未に伝えた。すると彼女は、意外な言葉で私を(なぐさ)めてくれた。
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