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秘密
20時30分。
俺、石動燕は龍造寺桜みらいとの夕食を終え、自宅に帰った。大学時代から4年以上、一人暮らししているペット飼育可のアパートだ。
俺は部屋に入るとすぐに鞄を投げ捨て、ひとり不気味な笑みを浮かべた。その後、"奴"を呼んだ。
「大きな収穫があったぞ。出てこい、福スケ。いや……『でっせの悪オヤジ』」
俺がそう呼ぶと、"その物体"は突然空中に姿を現し、待ってましたというような笑顔で口を開いた。
「でへへ、お帰りなさい燕様。待ってたでっせ。で?どんな進展があったでやすか?」
でっせの悪オヤジは、空中を浮遊しながら敬語で俺に言った。
この"でっせ"と"やす"が口癖のオヤジの正体は、俺が飼っていた愛犬の福スケの"生まれ変わり"だ。桜みらいには伝えてないのだが、実は福スケは、2週間前に老衰でこの世を去った。もう14歳だったから覚悟はしていたが、俺はそのショックで放心状態になり、仕事にも支障をきたしていた。しかしできるだけ気丈に振る舞おうと、彼女には弱みを見せなかったのだ。
福スケの死をひとり自宅で泣きながら看取った俺に、"超常現象"とも言うべき事態が起きた。突然福スケの肉体から青い魂のようなものがゆらゆらと上がり、その魂がなんとでっせの悪オヤジに姿を変えたのだ。現代の科学では到底起こり得ない事象である。ただし福スケは老犬だから、このようなヒゲの生えたおじさんに生まれ変わってしまっても仕方がないと、その点だけは辛うじて理解できた。
オヤジは驚いて目を見開いている俺を試すかのごとく、俺の過去や抱いている願望をなぜかすべて知っていて、それらを正確に言い当ててきた。そしてオヤジはこんな提案を持ちかけた。
犯罪史上例を見ない、"桁違い"の無差別大量殺人を起こして、世間をあっと言わせないか?____と。
それを聞いた途端、壮絶な過去を持つ俺の社会に対する"復讐心"が、一気に炎を上げて燃え始めるような感覚を覚えた。
ニヤッ。
自然に笑わずにはいられなかった。俺自身、ストレスや不満を長年溜め込んでいたのは自覚していたが、もういい加減限界だったのだろう。
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