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危うく食パンの塊を飲み込みそうになりながらも、なんとか挨拶はできた。挨拶をしながらこんなに素早く咀嚼したことが今まであっただろうか。
「あ、秋音ちゃん……」
「すみません! ちょっと急いでるので!」
何か言いかけた木下のおばあちゃんの前で、あたふたしながらも謝って先を急ぐ。春喜の一大事だもん、ごめんね、おばあちゃん!
まだ舌の上に残る小さな塊を、モグモグしながらやっとのことで飲み込んだ。
交互に出される私の足は、駅へ向かう春喜を必死に追いかけた。そして、ずいぶん向こうにそれらしき後ろ姿をこの目が捉える。やっと追いつくわ!
と安堵したのも束の間、あろうことか私の前方不注意で、横から飛び出してきた自転車とぶつかってしまったのだった。
「い……った……」
自転車に乗ってたおばさんはかろうじて転倒を免れたが、カゴいっぱいに入っていたいくつものみかんが、あちこちに転がり落ちた。
「すみません!」
痛みに耐えながらも、散らばったみかんを拾い集める。あぁ、タイムロス! なんでこんな朝っぱらからみかん山盛りカゴに入れて走ってるのよー!
「あなた大丈夫? 足にケガをしているわ」
すりむいた膝小僧には、少し血が滲んでいる。
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