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いつもと変わらない静かな朝に、お母さんの大声が家中に響いた。食パンをかじっていた私は思わず喉が詰まりそうになって、慌てて牛乳で流し込んだ。
「春喜が受験票忘れてる!」
「え!?」
今日は春喜の高校入試日だ。それなのに受験票忘れるとか、そんな初歩的なミスをしてしまうなんて! 成績はいいのになんてアホな弟なの!?
「秋音! さっき出たばっかりだから、急げば間に合うわ! 渡してきて!」
慌てて玄関を開けたけど、もう春喜の姿は見えなくなっていた。
もう! 春喜のバカ! 受験票は再発行できるだろうけど、もうその時点でパニクってて試験どころじゃなくなっちゃう。
とりあえず私もそのまま高校に行けるようカバンを準備して、受験票を中に突っ込んだ。残りの食パンも口に突っ込んで咀嚼するけど、口いっぱいすぎて「行ってきます」が言えなかった。
玄関ドアを勢いよく閉めて、私は駅に向かって走り出した。
「あら、秋音ちゃんおはよう。えらい急いでるねぇ」
毎朝挨拶してくれる木下のおばあちゃんが、いつものように玄関先をほうきで掃きながら声をかけてくれた。
「んぐっ! お、おはよ、ございまふ!」
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