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しかし、まさか…
まさか、アムンゼンの名前を出した途端、こうまで、バニラの態度が、変わるとは、思わんかった…
このバニラは、バカだが、金に弱い…
この矢田と、同じく、滅茶苦茶、金に弱い(笑)…
なぜなら、このバニラは、元々、貧乏人…
それが、自分の美貌を生かして、モデルとして、成功した…
だから、金に弱い…
あらためて、そう、思った…
そう、思ったのだ…
「…で、殿下が、なにを?…」
またしても、バニラが、猫撫で声で、聞く…
「…いや、アムンゼンが、夢中な女がいてな…」
「…殿下が、夢中な女?…それが、どうして?…」
「…そのアムンゼンが、夢中な女が、今度、来日するのさ…どうやら、私が、面倒をみるらしくてな…」
「…どういうこと? …それが、一体、私と、なんの関係が…」
「…おおありさ…」
「…おおあり?…」
「…そうさ…アムンゼンはあの外見だ…3歳にしか、見えん…」
「…それは、そうだけど…」
「…ならば、どうして、私が、3歳の子供と、知り合いなのか? 誰もが、疑問に思うだろ?…」
「…それは?…」
「…だろ?…」
「…それは、そうだけど…」
「…だから、オマエに電話をかけたのさ…」
「…どういうこと?…」
「…オマエの娘のマリアを連れてきて、アムンゼンの友達とでもいえば、相手も、納得するさ…マリアに関しては、私の知人の娘とでも、言えば、いいさ…それに、アムンゼンとしても、初対面の相手に、自分の身分を明かすのは、嫌らしくてな…」
「…自分の身分?…」
「…サウジの王族だということさ…なにより、ホントは、30歳だと、バレるのは、困るだろ?…」
「…」
バニラが、沈黙した…
声が返って、来んかった…
私は、待った…
バニラが、なにか、言い出すまで、待った…
「…それは、わかります…でも、そんなことに、マリアを巻き込むのは…」
バニラが言う…
苦しそうに、言う…
実は、このバニラ…
アムンゼンが、心配なのだ…
アムンゼンは、マリアが、好き…
しかしながら、アムンゼンは、見た目は、3歳児だが、ホントは、30歳…
小人症だからだ…
だが、同時に、アムンゼンは、サウジアラビアの王族でもある…
父は、サウジアラビアの前国王であり、兄は、現国王…
サウジアラビアの王族の中でも、バリバリのサラブレッドだ…
だから、まさかとは、思うが、将来、マリアを嫁にもらいたいとでも、言われないか?
と、母親のバニラは、内心、ヒヤヒヤしている…
それが、バニラの悩みだ…
仮に、マリアが、二十歳になれば、アムンゼンは、47歳…
しかも、小人症だから、カラダは、3歳のまま…
だから、正直、結婚させたくない…
しかしながら、アムンゼンは、サウジアラビアの実力者…
怒らせるわけには、いかない…
だから、決して、虎の尾を踏むような真似は、できない…
それゆえ、アムンゼンに丁重に接する…
それが、バニラのアムンゼンに対する態度だった…
だから、マリアを巻き込みたくない…
それが、マリアの母親としてのバニラの本音だったからだ…
だから、私は、
「…大丈夫さ…」
と、言ってやった…
「…アムンゼンは、30歳…もう子供じゃないさ…仮に、マリアが、成人しても、マリアをどうこうはしないさ…」
「…でも、お姉さん…」
「…大丈夫さ…バニラ…オマエだって、アムンゼンが、そんなヤツじゃないってことは、知ってるだろ?…」
「…それは…」
「…アムンゼンを信じることさ…それしかないさ…」
私は、言った…
口からでまかせを言った…
正直、私としては、口からでまかせを言うしか、なかったからだ(笑)…
が、
やはり、それだけでは、ダメだ…
もう一押しすることにした…
「…それとも、オマエ…なにか? …アムンゼンに逆らえるのか?…」
「…そんな…殿下に逆らうなんて…」
「…アムンゼンが、リンに、会うには、マリアが、必要なのさ…」
「…リン?…」
「…アムンゼンが、惚れた女さ…」
「…惚れた女…」
「…そうさ…」
「…どんな女ですか?…」
「…台湾のチアガールさ…たしか、葉問の話では、台湾のプロ野球、三星球団のチアガールをしていて、台湾では、知らないものが、いないほど、有名らしい…」
「…それが、どうして、お姉さんに…」
「…なんでも、葉問が言うには、お義父さんが、その三星球団を買うとか、買わないとか…それで、その三星球団で、チアガールをしている、リンの面倒を、来日した際に、私に面倒をみさせるらしい…」
「…らしい?…」
「…そうさ…らしいと言ったのは、まだ、お義父さんから、直接は、聞いてないからさ…」
「…直接、聞いてない?…」
「…そうさ…でも、たぶん、事実さ…」
「…どうして、そう言い切れるの?…」
「…葉尊さ…」
「…葉尊?…」
「…今日、寝る前に、葉尊も同じ話をしたのさ…」
「…葉尊も?…」
「…そうさ…葉尊も、私と同じく、直接は、お義父さんから、聞いてないそうさ…でも、秘書経由で、聞いたらしくてな…」
「…秘書経由で?…」
「…そうさ…葉尊もお義父さんも、経営者さ…忙しい身さ…だから、互いに、うまく時間を取れないから、秘書経由で、伝えたらしいのさ…」
「…そうですか、葉敬も絡んでいるんですか?…」
「…そうさ…なんでも、その三星球団を、お義父さんに買わないかと、勧めているのは、台湾の旧知の財界人らしくてな…お義父さんも、仮に、断るとしても、すぐには、断れないらしい…」
「…どうして、すぐに、断れないんですか?…」
「…相手の面子もあるだろう…お義父さんに、プロ野球の球団の買収を勧めるんだ…相手は、台湾の大物財界人や大物政治家に決まっているさ…仮に、その場で、断れば、相手の面子を潰すことになるさ…オマエにも、その程度のことは、わかるだろ?…」
「…ハイ…」
「…だからさ…」
私が、言うと、今度は、
「…」
と、バニラが、黙った…
「…」
と、反応せんかった…
だから、
「…バニラ…聞いているか?…」
と、言ってやった…
まさかとは、思うが、聞いてなかったら、困るからだ…
すると、
「…聞いてます…お姉さん…」
と、すぐに、返事が返って来た…
「…葉敬が、絡むなら、協力します…」
と、続けて、言った…
私は、すぐに、ピンときた…
すぐに、気付いた…
それは、葉敬の名前を出したからだった…
このバニラは、葉敬の愛人…
葉敬にべた惚れしている…
だから、だった…
私は、それに、気付くと、
「…だったら、頼んださ…」
と、言った…
「…ハイ…わかりました…お姉さん…」
バニラが、素直に答えた…
不気味なほど、素直に答えた…
そして、電話を切った…
電話を切ったのだ…
これで、とりあえず、手は打った…
私は、思った…
思ったのだ…
翌朝、葉尊とリビングで、顔を会わせた…
「…おはようさ…」
私が、夫の葉尊の顔を見るなり、挨拶すると、
「…おはようございます…お姉さん…」
と、葉尊が、返した…
だから、私は、それを、聞いて、
「…手は打っておいたさ…」
と、葉尊に言った…
夫に言った…
「…手は、打った? …お姉さん、どんな手ですか?…」
葉尊が、驚いて聞き返す…
「…アムンゼンのことさ…」
「…殿下のこと?…どういう意味ですか?…」
「…今度、リンが来日するとき、アムンゼンと、会わせるだろ?…」
「…ハイ…」
「…そのときに、マリアにいっしょに、来て、もらおうと思ってな…」
「…どうして、マリアに?…」
「…私がアムンゼンと二人だけで、リンと会うのは、マズいと思ってな…」
「…どうして、マズいんですか?…」
「…アムンゼンは、あの外見だ…3歳にしか、見えん…だったら、なぜ、私が、3歳の子供と、知り合いなのか、リンは、考えるだろ?…」
「…ハイ…」
「…だったら、親戚の女のコの友達とでも、言えば、いいかと、思ってな…」
「…親戚の女のコ?…」
「…現に、マリアは、歳が離れているが、葉尊…オマエの妹だ…そうだろ?…」
「…ハイ…」
「…だから、マリアを連れてきて、アムンゼンと友達だと言えば、いいと思ってな…」
私は、言った…
私は、夫に説明した…
すると、葉尊が、考え込んだ…
これは、私にとって、予想外…
想定外の出来事だった…
「…どうした? …葉尊? …なにを、考え込んでる? …私が、なにか、おかしなことを言ったか?…」
「…いえ、お姉さんは、おかしなことは、言っていません…」
「…だったら、なにを、考え込んでる?…」
「…マリアのことです…」
「…マリアのこと?…」
「…たしか、聞いた話ですが、殿下は、マリアを好きじゃ、なかったんじゃないんですか?…」
「…そうさ…」
「…と、言うことは、マリアも、それに気付いている?…」
「…そうさ…」
「…だったら、お姉さん…殿下をリンと会わせるのに、マリアがいては、マズいんじゃないでしょうか?…」
「…どうして、マズいんだ?…」
「…ずばり、嫉妬です…」
「…嫉妬?…」
「…マリアは、まだ3歳ですが、嫉妬深いです…殿下が、マリアを好きなら、なおさらです…普段、自分を好きだと言っている男が、他の女にデレデレすれば、マリアが、怒るんじゃないでしょうか?…」
葉尊が、言った…
考えてみないことを、言った…
これまで、この矢田が、考えてもみないことを、言った…
<続く>
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