未来への手紙

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8月13日。 今日から数日、会社は休み。いわゆるお盆休みというやつだ。 同僚たちは実家に帰省するなり、家族と旅行をするなり、それぞれ予定があるらしい。 私には実家も家族も無く、ついでに友人もいないので特にこれといった予定は無い。 ゆっくりダラダラ、一人の時間を満喫しよう。 ゲームでもしようか、本でも読もうか、映画でも見ようか…… 休み前はそれなりに何をしようかと考えていたけど、いざとなると億劫になって何もする気になれなかった。 とりあえずコーヒーでも飲みながらテレビをつけてみる。 帰省ラッシュの様子や家族連れで賑わう観光地の様子が中継されていた。 煩いと思ったのですぐにテレビを消した。 代わりに音楽をかけることにした。 静かなジャズ。流行りとは程遠いけど、このジャンルの音楽が私には心地いい。 この音楽をかけて目を閉じれば、それだけでここは無限に広がる快適空間になる。 そうやってしばらく過ごしていたら、突然インターホンが鳴った。 目を開けると、途端に狭くて安いアパートの部屋の中に引き戻される。 「何だろう」 玄関に出ると、宅配の配達員さんが立っていた。 「お届けものです」 愛想よく笑い、配達員さんは小さなダンボール箱を渡してきた。 何か注文をしていた覚えは無いけれど……と、思いつつ差出人を確認する。 「ん?」 そこに記載されていた名前を見て私は訝しい顔をした。 母の名前が記載されていたからだった。15年も前に他界した母の名前が。 「未来便?」 箱の外側に貼っていたシールに目が行く。 あまり聞かない種類のサービスだ。 「弊社の特別サービスです。長い時を超えた贈り物をしたいと望むお客様に向けて」 「はあ……分かりました」 にっこりと笑って説明する配達員さんの言葉に納得する。 なるほど、5年後なり10年後の自分に向けて手紙を書いて、すっかり忘れた頃にそれが届くとかいうイベントを聞いたことがある。 この宅配業者も、それに近いサービスを提供してくれているらしい。 今回の場合は、15年以上もの間荷物を保管してわざわざ私の元まで届けてくれたわけだ。何て律儀なんだろう。 配達員さんにお礼を言って、私は荷物を受け取った。
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