未来への手紙

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翌日、いっぱいのお菓子を詰め込んだ袋を携えて児童養護施設を訪れた。 今年の春……高校卒業まで私がお世話になっていた施設だ。 「久しぶりね。社会人1年目はどう? 元気にやってるかしら」 「お陰様で何とか。あ、これお土産です」 「あら、こんなにたくさんのお菓子を?」 「子供たちに食べさせてあげて下さい」 「まあまあ、ありがとうね。チビたちも喜ぶわ」 肝っ玉かあさんを彷彿とさせる中年女性こと施設長に挨拶をする。 幼い頃から面倒を見てもらっていたので、彼女は私にとって育ての母のような存在だ。 尤も、彼女にとっての私は数ある子供の一人に過ぎないのだろうけど。 「仕事はどう?」 「それなりにやってます」 「さすがね。あんた、昔から何でも卒なくこなすタイプだったもんねえ」 「ええ、まあ」 「子供の時に子供らしくなかったのが今でも心配だけど」 「そうですかね」 「ところで、あんた最近何かあった?」 「え?」 「少し、前と雰囲気が変わったような気がしてね。いい意味でね」 「ああ……分かります?」 「当たり前でしょ。何年あんたのことを見てきたと思ってんのよ」 「さすがですね」 「で、何があったの?」 「ちょっと良いことが」 「へえ……」 施設長は興味深そうに私を見た。 「それは良かったわね」 「はい」 小さく頷くと、彼女は小さな声で私に言った。 「お母様からのプレゼント、ちゃんと届いたのね」 「はい。ここに届いたのを私のアパートに転送してくれたんですよね。  ありがとうございます」 「まあね。無事に届いたみたいで良かったわ」 施設長が私の背中をぽんぽんと軽く叩く。 「じゃあ、チビたちにお菓子を配るってやるとしようかね。あんたも手伝って」 「はい」 施設長の後について子供たちのいる部屋へと向かう。 その時、ふと施設長が立ち止まりこちらに振り返った。 「あ、そうだ」 「ん?」 「お誕生日、おめでとう。1日遅れだけど」 「あ、覚えてくれてたんですか」 「当たり前でしょ。私を誰だと思ってんのよ」 大らかに笑い、施設長は前を向いて歩き出した。 彼女のこういうところが好きだ。 私が下手な悲劇のヒロインのようにならずに済んだのは、彼女のような人がずっと近くにいてくれたからだろうとも思う。 「ありがとう、お母さん」 聞こえないようにこそっと呟く。 そうして、私もまた前を向いて歩き出すのだった。 (終)
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