⑦面倒な仲人

3/18
前へ
/208ページ
次へ
ごくりと息を呑んだ時、メイドに案内され国井夫妻が現れた。歓迎する則安の陰で陽葵は背筋を伸ばす。いますぐトイレに行きたい気持ちは懸命に掻き消した。 リビングのローテーブルを前に皆が揃う。 「ただいまより、高見沢尚登さまと藤田陽葵さまとのお結納の儀を執り行わせていただきます」 まずは国井が口上を述べる、慣れた様子なのは過去に仲人を引き受けたことがあるからだ。 国井が頷けば、上座となるキャビネットに置かれていた熨斗袋が並んでいる白木の台をメイドが運ぶ。 内容は昆布やアワビのしなど語呂合わせで幸せを願う定番のものだ、国井が懇意にしている百貨店で揃えてもらった。 「本日はお日柄もよく、御両家におかれましては誠におめでとうございます。この度は高見沢尚登さまと藤田陽葵さまとのご縁談、めでたく整いましたので、お約束のしるしとしてお結納の品を持参いたしました。こちらが高見沢様からのご結納の品でございます、お改めの上、幾久しくご受納くださいますよう、お願い申し上げます」 口上の元京助に渡す、とても重く感じるのは、金包には500万円もの結納金が入っているからだろうか。そんな大金と京助は慄いたが、当面のふたりの生活費だと仁志は笑った。 白木台には小さな箱も乗っている、ふたりで選んだ婚約指輪だ、それを見つけて陽葵は微笑んでしまう。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

385人が本棚に入れています
本棚に追加