⑦面倒な仲人

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「ただいまは、ご丁寧なお言葉を賜りましてありがとうございます。結構なお結納の品々をいただきまして、厚くお礼を申し上げ、幾久しくお受けいたします」 京助の方はややたどたどしく答え、ふたつの台を受け取ると受書を文言と共に国井に差し出した。受書も本来ならそれぞれの家で内容を確認してから書くべきだが、百貨店で名前までも書いてもらっており、渡すだけだ。 その受書を国井が仁志に渡す、それを受け取ったという証の受書を仁志が国井に渡し、それを京助に渡す──こうして見ていても仲人など介さず直接渡せばいいようなものだが、それがしきたりだ。渡す、受け取るためだけに仲人は双方の家を行き来する、田園調布と川崎ならばたいした距離ではなく、大変なのは国井だけだがなんとも無駄な時間だと尚登は思ってしまった。 「確かに幾久しくお受けいたします。これを持ちまして高見沢尚登さまと藤田陽葵さまとのお結納の儀はめでたく相済みました。本日は、まことにおめでとうございます」 国井が滔々と言えば、皆で頭を下げ末永くよろしくお願いしますと声を揃えた。時間にして15分ほど、このために窮屈な正礼装とは、と思ったのは尚登も陽葵もだ。 「いやめでたい。さあ、では、いっぱいやりましょうか」 則安が手を叩き空気を換え皆を誘った、ダイニングには祝宴の準備がされている。
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