⑦面倒な仲人

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尚登はすぐに陽葵に手を差し伸べる、陽葵は迷うことなくその手を掴み立ち上がた。 ダイニングに行けば、メイドが席へと案内してくれた、陽葵は尚登と父に挟まれて座る。真向いに国井の妻が座っており、陽葵は目のやり場に困る。 希美がずいぶん遅れてやってきた。結納の品を金庫にしまっていたのだ。アワビや鰹節はなくなっても困らないが、結納金は万が一があれば家庭不和が起こってしまう。 「陽葵ちゃん、これ」 熨斗のかかった小さな箱を手渡す、それを見て陽葵はすぐに笑顔になった。 名の通ったブランドなどでなくていい、気に入ったものにしようと尚登がフルオーダーの宝飾店へ連れていってくれて作った、世界にたった一つの指輪だ。陽葵の誕生石、ルビーはちょうどいいものがあると見せてくれた真っ赤なものを尚登が気に入りそれにした、のちにピジョン・ブラッドという貴重な石だと教えてもらったのだ。 サイズ確認のためにはめた時の高揚感を覚えている、ほとんど尚登が決めたデザインだが、繊細で華やかなものでさすがだと感心した。 「指輪でしょ、見せて見せて」 希美が囃し立てれば、陽葵の手から箱を取り上げ尚登が封を切る。 ケースに入った指輪を見て心は踊った、手に取り指にはめれば尚登と結婚するのだと実感する。 細身の指輪は日常生活でも邪魔にならない、肌身離さずつけていたいと思った。 「これでひとつの段落は済んだな」
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