⑦面倒な仲人

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尚登はああ、と返事をした。言いつけ通り紋付き袴の試着をしたのだ。なるほど菊田のいうとおり、裄も丈も、誤魔化せないほどに足りない。作ってもらった呉服屋に裾だしをお願いすると言っていた、その件だ。 ふたりで礼を述べ、手を繋ぎマンションに入っていく。その背を石巻はにこにこと微笑み見送った。 エレベーターに乗り込み7階のボタンを押す、動き出すと陽葵はどっと疲れが出るのを感じ、大きなため息とともに壁にもたれかかった。 「疲れたか」 「うん」 素直に答えたが、それだけではない。 「それと、すごーく、不安」 国井夫妻の視線や態度を思い出し身震いしてしまう、きっとそれはこの先も受ける扱いだろう。高見沢家の嫁として、末吉商事の社長夫人として接する度に惨めな気持ちになりそうだ。 「きっとみんな、国井さんと同じこと思ってる、私が尚登くんの奥さんなんておかしいって」 結婚式で二千もの人の前に嫁として登場しなくてならないと思えば、吐き気がしてくる。 「俺が選んだんだ、何言われても気にすんな。じいちゃんも言ってただろ」 確かにとは思うが、陽葵の不安はそんなことでは消えない。 「もしああだこうだ言うやつがいたらすぐに俺にチクれ。りぃは我慢するから心配だ」 じっといれば嵐は過ぎると、父の再婚相手に教わってしまったからだ。
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