⑦面倒な仲人

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現に今も言葉を封じて黙り込む、陽葵の不安そうな表情を見て、尚登はしっかりと抱きしめた。 「尚……」 「陽葵と家や会社、どっちか選べと言われれば、俺は絶対に陽葵を取る。一緒に遠くに逃げようぜ」 「そん──」 できるわけがないと思った、その尚登が背負うものの大きさは陽葵の比ではない。 「そんな言い方は卑怯だな、陽葵に全被せだ。そうじゃない、言ってんだろ、俺は会社は継ぐ気はない、一瞬は継ぐけどな、すぐに他のやつに譲る。そこはちょっと辛抱しろ」 「……うん」 そんなことは言っていた、陽葵はそっと尚登の背に手を這わせ抱きしめる。 「家も、親が元気な間は放置だ。どっちかが弱ってきたらさすがに面倒を見る、陽葵のお父さんももちろん。でもあと何十年かは大丈夫だろ、それまではふたりで気楽にやろう」 それには陽葵はふふっと笑ってしまう。 「何十年はさすがに無理だよ。それに私、社長もお義母さんも大好きだから、もっとそばにいたい」 実母の記憶も遠い陽葵には希美の理想の母だった、むしろ姉のようにも感じられ、一人っ子だった陽葵には嬉しいことだった。 「んじゃあちょいちょい顔は見せるか。でもマジで陽葵は高見沢の家も、末吉商事も気にしなくていい。俺だけ見てろ」 「──うん」
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