⑧ブライダルフェアにて

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⑧ブライダルフェアにて

それからも週に1度か2度、菊田から妙な時間に電話がかかってくる。 もちろんどうでもいい内容ではない、だが概ねは尚登が答えられるではなかった。いくら高見沢家主体とはいえ、やはり結婚式は花嫁たる陽葵が主役だ。尚登が陽葵に聞いて答えることあるが、ほとんどは陽葵に直接聞いたほうがいいような内容だった。 だから陽葵に電話してくれと伝えたが、でも、しかしと言い含められた。 それに間違いはないが、自分を通されてもと思う。なによりそれほど急がなくてもいいと菊田が言っていたのに、なぜそれほど頻繁に電話をかけてくるのか。さすがに腹が立った尚登はどういうことかと支配人に連絡を入れる、事情を聞いた支配人は平謝りし代わりを用意するとのことだった。 まもなく新しいプランナーの紹介を兼ねて、ブライダルフェアへの招待を受ける。 ブライダルフェアは多くは結婚を考えるカップルの結婚式場の品定めのためだが、尚登たちは料理の試食や模擬挙式を見るための賛歌だ。是非と誘われ4月半ばの土曜日、ホテルに出向いた。 手を繋ぎホテルのエントランスから入っていけば、その姿を見つけた支配人が腰も低くフロントから出てきて、頭を下げ下げやってくる。尚登はいいですいいですと手を振り答えるが、その姿をロビーを見下ろせる中二階にあるカフェから見ている者がいた──浜松町駅で倒れていた男である。
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