⑧ブライダルフェアにて

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ぱあっと顔を明るくさせ一瞬立ち上がりかけたが、すぐに着席した。支配人の先導で陽葵たちはさっさと歩み去ってしまったからだ。 その陽葵の顔を男は笑顔でじっと見つめていた。 案内されたブライダルサロンで待っていると、支配人が男性と女性をふたり連れてやってきた。ひとりは菊田である、その姿を見て尚登は顔を曇らせる。 「高見沢様、本日はご足労ありがとうございます。菊田の件は大変ご迷惑をおかけしました」 謝罪したのは一緒に来た男だ、ブライダルサロンの責任者である。 「こちらが後任のウェディングプランナーの宇野です」 紹介に尚登より年下と見える女性が頭を下げ、名刺を渡す。 「菊田、お詫びを」 言われて菊田はうなだれたまま半歩前に出た。 「この度は……ご迷惑を顧みず、先走ってしまいまして申し訳ありません……どうしてもよいお式にしたいと、気合が、入りすぎまして……」 うう、と言葉を詰まらせ、ハンカチで目まで覆う菊田に、尚登は不機嫌に視線を向けるだけだが、陽葵はおろおろと大丈夫ですよと声をかけていた。 「高見沢様、ご迷惑は承知ですが、菊田もこのように大変反省しております、そして当方でも1、2を争うベテランです、一番広いカサブランカの間での宴を取り仕切った経験は何度もございます」 責任者は深々と頭を下げ、今回尚登たちも使わせてもらうバンケットルームの名前を上げた。
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