⑧ブライダルフェアにて

6/22
前へ
/216ページ
次へ
「結婚式場のキャンセルって相当だと思います、担当変更すら滅多にないんですけどね。多くの新郎新婦は初めての経験で、右往左往している間に終わってしまう感じなんじゃないかと思います、ちょっとくらいの違和感はこんなものかなで済ませてしまうのでは」 それには陽葵が頷く、今まさにその状態だからだ。 「前の式場は5年いましたけど、キャンセルの経験は施設全体で3件です。それもお身内の不幸やご本人様の転勤のためで、致し方ないと思いました。皆さん、会場選びは慎重じゃないですか、選りすぐりの思い入れのある会場なんですから、そう簡単に「やめる」とはならないはずなんです。でも、菊田さんが担当された新郎新婦が短い期間で2組も。しかもその連絡をこちらでは「またか」という感じを受けました──その方たちは一身上の都合と伺っていますが、高見沢様となにか繋がるものを感じます、今後の参考になにがあったのかお聞きしてもよろしいでしょうか」 宇野はただ尚登が担当を代えて欲しいと言ってきたとしかきいていない。そればかりは真剣な目をして問えば、尚登と陽葵はわずかな間、目を合わせて声にならない会話を交わした。 「──夜間の電話が多かったんです、それがちょっと苦痛でした」 尚登が小さな声で伝えた。 「夜間。何時くらいですか?」 宇野は本当に事情聴取をしたいのか、ファイルを開きメモを取る。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

394人が本棚に入れています
本棚に追加