⑧ブライダルフェアにて

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宇野はメモに記しながら、先日の事務所での様子を思い出す。担当を代えると聞いた菊田は嫌だ、辞めたくないと我を張った。私頑張っています、どうしてもいい式にしたいんですと熱弁までした。しかし高見沢家にそっぽを向かれたくない支配人と責任者で何とか説得を試みる、そこで宇野とタッグを組んでということにはなりその場は収まったが。 ふと先のキャンセルの二組の事が気になった、ルックスやステータスだ。 (──まさかね) 宇野は小さく頭を振って考えを追い出す。 まさか、尚登のような美丈夫に恋心でもいだいたのでは。 あるいは陽葵のように若く美しい花嫁に嫉妬したのでは。 そんなことあるわけがないと、笑顔を作る。 「本日は教会式ですが模擬挙式もご覧になれますよ、どうなさいますか?」 「教会式なら、俺はいいかな。りぃは?」 「私もいいかな……代わりいってはなんですけど、神社を見せていただくことはできますか?」 実際の式場を見て心構えにしたかった。 「はい、可能です。ええっと、挙式はホテル内でよろしいのですか?」 ファイルを確認しながら聞く、その欄には何も書かれていなかった。 「他にあります?」 尚登が不思議そうに聞けば、宇野は笑顔で答える。 「近隣の神社とも提携しておりますので、そちらでも──という話も、菊田はしていないのですか?」 「初耳です」 尚登もにっこりと笑ったのは、嫌味だ。
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