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「──黒紋付羽織袴でしたら、サイズ直しもしましたとお知らせしたと思いますが」
菊田本人が電話をしてきて確認したのに、とまでは言わなかった。
「それは大変失礼しました」
宇野は丁寧に詫びてメモに残し、尚登をフロアにある丸テーブルに案内した。
「そのほかの衣装はどうなさるのでしょう。陽葵さまもですが、お色直しの衣装は、こちらでレンタルなさいますか、購入のご予定など?」
「あ、そういや、決めてなかったな」
お色直しをするのかすら、決めていない。宇野は微笑んだ。
「男性の場合は黒紋付羽織袴とタキシードがあれば十分ですが、少し変化を付けたい、おしゃれにしたいということなら、フロックコートやモーニングコートでお色直しをなさっても素敵です」
「ああ、どっちもありますね」
昼間の正礼装だ、備えはある。
「ならば尚登さまのレンタルでのご用意は不要ですね」
さすがです、とは声には出さなかった。
「陽葵さまは全てレンタルでよろしいですか? 記念にと作る方もいらっしゃいますよ?」
「うーん、作るかー。着る機会は、ある、かー?」
父がタキシードや燕尾服を着て出かけても、母がそれに対応するドレスを着て出かける姿など見たことがないが。
「陽葵に聞いてみます」
要らない、レンタルで充分と言うだろうなと思いながら言っていた。宇野は微笑む。
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