⑨三宅さくらの恋心

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社内で副社長として会っていた尚登の印象を思い出す。確かに窓辺で静かに本でも読んでいそうなイメージだった、それが多くの人が持つ尚登の印象だろう。本人も社内では猫を被っていると言っていた、副社長を演じているのだ。だが、実際は今日のようにサバゲーが大好きな少年のような男である。 「全然そんなことないです、むしろ肉食系です」 そんな言葉だけは、周囲で聞いている皆の耳にも大きく聞こえた。 「私に触るのが好きみたいで家にいるといつも触ってきます、あ、触ると言っても髪とかほっぺとかですよ。隙あらばキスもするし、あ、それもほっぺとかおでこですけど、夜になると──」 息継ぎもしないで一気に言って不意に正気に戻った、完全に余計なことを口走っている。 「お、お肉大好きでしかも大食いなんですっ、焼肉とか行くとびっくりするくらい食べるので、心配ですっ」 慌てて誤魔化したが目の前の三宅はニヤニヤと笑っていた、周囲の者たちも聞き耳を立てているのも判る。 「いやいやぁ、わたしゃ安心したよ。寄るな触るなだった陽葵ちゃんが、これほどに成長するとは。毎日イチャコラしてるのね!」 「やめてくださいっ」 陽葵は真っ赤になった顔を両手で隠して訴える、三宅はニヤニヤと笑うばかりだ。 「愛は偉大ね」 それは本心だ、尚登が陽葵をこうも変えたのだ。いつまでも人間嫌いでは生きてはいけない、本当によかった。
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