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⑩仕立て屋・藤宮
その店は横浜市の中心地から少し外れた場所にある商店街の中だった。
シャッターも目立つ、その店もかつては美容室だった。少しレトロ感があるのは大きく改装しないまま使っているからだ。
ドアを開ければドアチャイムが軽やかな音を立てる、台に張り付くように作業していた男性が顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
店主の藤宮由人が笑顔で出迎える。
「相原良太さんから紹介されてまいりました、高見沢です」
尚登が自己紹介をすれば、藤宮は笑みを深めた。
「承っております、ドレスの相談ですよね。どうぞこちらへ」
言って陽葵を見ていざなう、今回の主賓は女性だと判っている。
「お忙しいところ、すみません」
尚登が詫びた、仕事中であったことは一目瞭然だ。
「気になさらないでください、高見沢様のお仕事も大事です」
笑顔で言い、ストールに向かい合わせに腰かけた。
「デザインでお困りとか。普段着ることないものですから、目移りして決め手がないと言うのはよく判ります」
陽葵はうなずく、普段着すら自分が似合う服や色など気にしたことがないのもあるだろう。
「まずはお色ですか──そうですね……」
藤宮は立ち上がり、2方の壁のほぼ全面を埋めつくす棚にある布を引っ張り出し作業台に並べていく。サテン地は同じだが、色は全て違う。虹を表現するのに使う7色と、白と黒だ。
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