⑩仕立て屋・藤宮

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藤宮が笑顔でその写真を捲って示す、たくさんある写真が全て藤宮の制作だと思うと陽葵は感動した。 「デザインで背中に布を足すこともありますので、デザインした者やお店側の判断で変わることはあるかもしれません」 一枚、金髪の女性が真っ白な肩甲骨をこちらに見せ、うなじから大きなリボンが垂れ下がるドレスがあった。それもホルターネックのドレスだが背中の大部分はリボンで隠れてしまっている。大胆に見せていてもこうして隠せるのだ。 「お袖はロングスリーブがよろしいかと思います、寒い時期の挙式ですからね。布地によっては重さを感じてしまうと思うので、レースやオーガンジーなど透け感のある素材のものをお選びになるか、七分袖、ベルスリーブにしたらいいと思います。でもせっかく陽葵さまは華奢ですから、大胆に出しても見栄えしますよ」 「大胆、ですか」 「はい、キャップスリーブやノースリーブです。お袖は少し条件を緩くすれば、見つけやすいと思います。簡単なデザイン画をお描きします、そこに今挙げたお袖のデザインも描いておきますので、ドレス屋さんのスタッフと相談してみてください」 スケッチブックを用意しようと藤宮がその場から離れる。 「そんなデザイン画だなんて……そこまでしていただいては、申し訳ありません」 陽葵は辞退するが、藤宮は微笑み答える。 「お気になさらずに。素敵な花嫁さんになるための手助けは惜しみません」 ストールに座り直すと鉛筆をサラサラと紙に滑らせる、その横顔は楽しそうだった。
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