⑩仕立て屋・藤宮

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「デザインだけでもお金はかかるでしょう、お支払いします」 尚登も言うが、藤宮は笑うだけだ。 「いたずら書きですよ、大丈夫です、本当に気にしないでください」 良にも言われたのだ、お金は払うからと。それももちろん断った。 「ああ、相原様も、とても素敵なドレスをデザインなさるんですよ」 「良が?」 尚登が聞き返せば、藤宮は手を休めずに微笑む。 「ええ、とても多才な方です、料理もお得意ですが、ドレスまで。相原様がデザインなさったものを私が仕立てます、相原様が経営なさっている結婚式場で貸し出しているので、着用された花嫁の写真を送ってくださいます。皆様幸せそうで心が躍ります、そのお手伝いができるだけで私も幸せなんです」 話す横顔はそれが真実だと言っていた。 「そうそう、結婚式場には専属のモデルさんがいらっしゃるんですが、ご婚礼の衣装も作らせていただいたんです。その方はビジョンがしっかりしてらっしゃいましたね。首元はハイネックで甲まで覆うロングスリーブと一切素肌は見せず、スカートはスレンダーラインと、クラシカルな王道中の王道でした。生地も綸子ととてもシンプルで、むしろ私の腕勝負という感じで──あ、お写真があるはずです」 手を止めファイルを捲れば、確かにあった、金髪の女性がシンプルなドレスに身を包みマリアベールをかぶって佇む。見てはっとした、専属モデルだから写真がいっぱいあったのだ。
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