⑩仕立て屋・藤宮

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「じゃあ、このまま作ってもらうか」 その手元を覗き込んだ尚登が言う。 「えっ!?」 「別に絶対ホテルの提携先のとこで選ばないといけないわけじゃないし。ここまでしてもらってありがとうって帰るのも、なんか追剥みたいじゃねえか」 確かに、とデザイン画を見て陽葵も思う。 「いえ、そちらは本当に走り書きですし、本当にいいんですけど……もちろん、やらせていただけるのなら、精魂込めて作らせていただきます」 胸に手を当て言う姿の頼もしさだ。 「どこか妥協するくらいなら、完璧な一枚を作ってもらおう」 尚登に言われても踏ん切りがつかない。 「でも、お高いんじゃ……」 「今更値段の事なんか気にすんな。いくらでも払ってやる」 「こう言ってはなんですが、物によると言い訳はしますが、レンタルとそうお値段は変りません、そこはお気にならなくてもよろしいかと。お式が終わりましたら、ちょっとしたパーティーに着られるようリフォームは承りますし、とっておいてお子様のためにサイズ直しをする方もいらっしゃいます。本当に不要でしたら、ドレスショップで買い取りをしているところもありますよ」 「こどもの、ために……」 自分が作ったカラードレスなど、着てくれるのだろうか。 「ウェディングドレスとしてのサイズ直しの経験もありますが、お子様がまだ小さいうちにフラワーガールとして参列するために手直しをといらした方もいます」 「フラワーガール?」 「バージンロードで花嫁の前を花びらで清める係です」
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