⑩仕立て屋・藤宮

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ああ、と陽葵は思い出す、そんな映像を見た覚えがあった。後ろを歩きベールを持つ子もいる、ベールガールだ、長く引きずるトレーンを持つトレーンベアラーもいる。 「……かわいい」 母親が着たドレスを小さくして、子どもが着て花嫁の手伝いをするなど、想像しただけで笑顔になれる。 「お作りになりますか?」 心を見透かしたように藤宮が言う、陽葵ははいと答えていた。 「承知しました。特別丁寧にお仕事させていただきます」 藤宮は立ち上がると優雅な仕草で頭を下げる。 「完成まで最大で2か月ほどいただきたいです、その間に何度かこちらに足を運んでいただきます」 陽葵は訳も判らずはいと答える。 「では、採寸から始めましょう」 言われていきなり陽葵はげんなりする、たったいまグラマラスな美女が子供をふたり産んでも体型が変わらないと言う話を聞いたばかりだ、比較されそうで怖い。 「それから布の選定もしなくてはなりません、陽葵さまに似合う色が、気に入る布地にあるとよいのですが。ああ、こちらになくても取り寄せをいたしますから、安心してください、むしろ納得のいくまで探しましょう。さあ忙しくなりますよ!」 腕まくりをし、メジャーを手にする。 陽葵のためのたった一着のドレスが作られる。
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