①尚登と良

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良は一代で財を成し実業家として名を馳せていると聞いた、それなら自慢にもなるだろう。だが末吉商事は昭和の初めから続く一族経営でやってきている企業だ、その跡取りだと言われ持ち上げられても尚登は嬉しくなかった。 「呼ぶのも尚登でいいし」 「うーん、確かにその気持ちは判る」 それは良も相手も年齢や属性に関係なく言うことだ、他人行儀なのはしっくり来ない。 「じゃあ、遠慮なく呼び捨てで。俺のことも良でよろしく」 「良か」 先ほどもらった名刺を思い出しながらつぶやいた、良太からの愛称だ。 「ホルスターはどこの使ってんの?」 「ええ? メーカーなんかあんのかな、気にしたことないな、もらいもんだし」 もらいものなのは事実だが、いつも行動を共にしているナナという女性が用意したものだ。わずかにジャケットをめくりそれを確認するような素振りは見せるが、刻印があったにしてもどこにあるのかも知らない。 「でもそれを常につけてるなんて十分ガチじゃん」 「中二病の延長」
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