②初参戦

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「じゃあ、後日会いますって言っておいてくれよ、今日はこのまま楽しい気分で眠りにつきたい。予定は鈴木さんたちで決めてくれれば優先して合わせる」 『今日、今じゃないと嫌なんだと。しょっぱなからなぜ良がいなんだと大騒ぎだったんだ』 なるほどな、と思った。スマートフォンが絶えず震えだしたのは夕方6時頃からだ、それは『畑の奥さん』を囲む行事が始まる時間──畑はやくざの妻だ、先日組長だった夫が亡くなり跡を継いだ形になったが、今はやくざや暴力団も肩身が狭い。自分では率いることはできないと組を畳む決心をした。 その席に鈴木も呼ばれた。鈴木は警察など表の世界にも通じるが、やくざなどの裏社会にもコネクションを持つ、はっきりとは良にも得体のしれない存在だ。一例を挙げれば警察にあそこに銃があると知らせるが、暴力団に銃を卸すこともある。とんでもない仕事だが、そうすることで表と裏の調整を行っているのだ。 『今日の晴れ姿を良に見て欲しいという未亡人の切ない願いだ、聞いてやってくれないか』 組を解散するのも簡単ではない、その調整も鈴木が相談を受けていた。自分がいかずに間延びしているなら、行かなくてならないのか──ため息交じりに良は答えていた。 「判った。今山下町だから、5分もあれば着くと思う」 助かるよという返事を聞いてから電話を切った。鈴木は自分の世界から良を出て行かそうとしているが、結局そうやって裏社会へと引きずり込む。辞めさせる気なんか皆無じゃないかといえば、いつでも辞めればいいと笑う、とことこんタヌキ親父だと良は再度ため息を吐いていた。
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