①尚登と良

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もちろんそんな話は知らんとアメリカに帰ってもよかったのだが、しないままその座に収まったのはやはり幼少期からの刷り込みのせいだろうか。 「……式くらい、こぢんまりと、いっそふたりきりで、挙げたいよなあ」 独り言のような尚登のつぶやきに陽葵は小さく頷く。神父なり神主が見守る中、ただ静かに神様に愛を誓えれば最高なのだが──それも初期のうちに両親に言ったが、父の仁志に門前払いされた。親しい関係者には式から参列してもらうというのだ、結婚式すら仕事道具なのだと判る。 「ふむ。見せびらかしの大掛かりな式はそれとして、別に人前式で友達呼んでささやかに賑やかにやるなんてのもアリかもよ?」 良の提案に、尚登も陽葵もあかねも視線を向けた。 「俺。京都で結婚式場もやってるけど。市内で営業してるレストランとかカフェとかでも時々結婚披露宴、承ってる」 親指で自身の胸を指さし言う良に、皆は感嘆の声を上げた。 「なるほど……」 陽葵がつぶやく、確かにレストランウェディングなどというものがあると思い出したが。 「……あ、でもごめんなさい、私、結婚式に来てくれるようなお友達は、いないですから……」
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