③大切なもの

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ボンゴレビアンコを食べていると、尚登の母の希美がやってきてねえねえと陽葵に声をかけた。 「あのね、使ってほしいわけではないんだけど、もらってほしいものがあるの」 大きな桐の箱を抱えていた、それをテーブルに置き蓋を開ける。 べっ甲製の立派な(かんざし)のセットだった。玉かんや平打ち、飾り櫛や(こうがい)などに金や貝の蒔絵や精巧な透かし彫りが施されている。それが10本も並んでいた。 「私の曾祖母が作った物なんですって、戦前からだから多分本物だと思うわよ」 祖父母の代までは大層裕福だったと聞いていた、戦後の混乱で資産を失ったというが、どこまで本当か、希美にも判らない。 「私も結婚の時にもらってね。女の子生まれたら譲ってあげようと思っていたんだけど残念ながら男の子だけだったし、このまま捨てたり手放すよりは陽葵ちゃんに引き継いでもらいたいなって」 「そういうのは重たいだろ」 尚登がすかさず言ったが、陽葵は大きく首を横に振り声を上げる。 「とんでもないですっ、いただきたいです!」 思えば自分には母がいない、義理とはいえ母からプレゼントならば純粋に嬉しかった。
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