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陽葵が働く会社の会長の友人と聞いて緊張して会ったが、言葉を交わせばさらに緊張した。どうも見下されていると感じたのは言動の端からだ。馴れ初めよりも前に出身校を聞かれた、遠回しに家柄のことも。お母様はいらっしゃらないのね、親族席は見栄えのために誰か雇ったほうがいいのではと言われ、肩身が小さかった。
尚登はもちろん、希美も口を挟み、それに対しては反論もせずにそうねと笑顔で受け入れていたが、陽葵を見る目がどことなく冷たかったのは気のせいだろうか。
「結婚すんのは俺たちなんだよ」
とはいえ、会長の友人の言葉を無視などできるのだろうか。
「気持ちは判るけど、やっぱり結婚はお披露目の場なのよ。あなたが伴侶を娶り、今後の末吉商事を背負って立つ人間だというアピールをするには、相応の舞台が必要で、結局私もやってよかったなって」
「継がねえって言ってんだけどな」
「尚登っ」
散々聞いてる、じゃあ、ならば誰が跡継ぎになるのだという話だ。尚登もその先のビジョンまで家族に話していない、下手に話せば則安や仁志に潰されかねないからだ。
「まあ、とはいえ、簪くらいは持っておくのはいいな。本当に品は良さそうだ」
陽葵がうんと頷けば、希美もほっとして箱に蓋をし、一緒にもってきた風呂敷に包んだ。
受け取り陽葵は笑顔になる、大事なものを希美から託された、それだけで自信になった。
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