①尚登と良

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陽葵は小さな小さな声で言った。 実母を幼い頃に亡くし、実父はまもなく結婚相談所を通じて再婚した、互いに子連れでの再婚だった。 その義母が問題の多い存在だった。我が子かわいさから陽葵を拒絶し虐待を始める。幼少期は部屋に閉じ込めた、そのため実母が生きていた頃の友人との交流はなくなった。中学以降は遠く九州にある寮完備の中高一貫校へ押し込んだ。全国から生徒が集まる学校で関東からも来てはいたが、残念ながら卒業後は連絡を取り合ってはいなかった。 「俺やあかねちゃんも参加させてもらうけどね、孝ちゃんもね」 言えばタップからビールを注いでいた店のオーナー、影山孝佑は微笑み頷いた。 「でも俺も祝ってほしいような友達は、いねぇかなぁ」 高校進学の際にアメリカ留学を選んだ。以降、日本国内の友人で絶えず連絡を取っているような者はいなかった。参列して祝ってもらいたいのは、アメリカでできた友人たちか。 「そんな、天下の末吉商事の次期社長が、淋しいことを」 良が言えば、尚登はふざけた様子で憤慨する。 「だからだろ。親しい奴ほど去っていくし、面倒な奴ほど集まってくる」
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