372人が本棚に入れています
本棚に追加
通話は一旦やめ、スマートフォンを握り締めたまま車のドアを開けたが、それを尚登が止める。
「いや、いい、いい。俺と陽葵は電車で帰る。今日はもう会社に戻るだけだし」
むしろ嬉しそうに言って尚登はドアを開けた、すぐに隣の車の助手席の窓が開き女性秘書がどうしましたと聞いてくる。
「車がご機嫌斜めになった、陽葵と俺は電車で帰る」
「え、じゃあ、一緒にこっちの車で帰ればいいじゃないか」
仁志が後部座席から身を乗り出し言えば、助手席にいる秘書はドアを開ける、尚登はすかさずいいってと笑顔でそのドアを押し止める。
「お気遣いなく。りぃ、行くぞ」
言われて陽葵は慌ててコートを手に取り、車を降りる。仁志がおい待てなどと声をかけるが、尚登は陽葵の手をずんずん歩いて行ってしまう。
「だ、大丈夫かな……」
皆の心配も判る、しかしそんなこと尚登は気にしない。
「会社に戻るだけだし、むしろ電車の方が早いんじゃね?」
道路の混み具合によってはそうだろうか。
「最寄り駅は地下鉄か、JRまでそれで行ってもいいけど、のんびり歩いて行くか」
「そんな、のんびりしているわけには」
繋ぐ手に力を込めて最寄り駅へ行こうと言いかけたが、
「デート、デート。どっかでコーヒーでも飲んでいこう」
それだけは阻止しなくては、あまり遅くなれば皆が心配する。
最初のコメントを投稿しよう!