④ホテルにて

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☆ JRの浜松町駅に到着する。 「お、モノレールだ、羽田行くか? 飛行機見れるし、ご飯でも」 「行かないよっ、会社戻らないとっ」 こんな時だからこそ、きちんと秘書としての仕事を完遂しなくてはならない。 尚登の腕に自分の腕をかけ下りホームに上がる階段へ連れて行く、尚登は素直に従った。 ちょうど山手線が入ってくるところだった、あと数段で登りきるという時にその電車のドアが開く。 人が吐き出されるが平日の昼間だ、そう多くはない。それでもその波に押されるように降りた男性が躓き転んでしまう。 陽葵は「あ」と声が出た。若い男性だ、20代前半、陽葵よりも年下と思えた。若いのならばすぐに立ち上がりそうだが、男性は背を丸め完全に蹲ってしまう。 大変、と思うより前に尚登の方が動いていた、陽葵の手をそっと解き男性に半ば走り寄る。逡巡する様子がないことに陽葵は胸が熱くなるのを感じた。 初めて尚登に声をかけられたのは目黒駅のホームだった、陽葵もそうだった、気分が悪くなりホームのベンチに座りうなだれているところを助けてくれたのだ。困った人がいればすぐに手を差し伸べる、それに迷いがないことが判り嬉しくなった。
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