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電車からはまだ降りる人がいる、ホームを歩く者もいるが、男性を見ても皆通り過ぎていく。
「大丈夫ですか」
男性のかたわらに膝をついた尚登は肩に触れながら声をかける、男の第一声はうめき声だった。
男性は顔も上げない、膝をつき体を前のめりにし額もホームについている、苦しさが判った。首筋や頬に脂汗が浮ているのが見える、明らかに具合が悪い。
「なにか持病が?」
尚登は声を掛けながら手荷物を確認してみる、ヘルプマークでもあればと思ったが見える場所にはない。
「動けるならベンチへ行きましょう」
ホームで冷たかろうと思ったが近くにはなかった、少し歩くことになるが、それは可能だろうか。
「動くの、無理です……持病は、ないです……お腹が……異常に、痛くて……」
呻きながらの言葉がかすかに聞こえた、ただの腹痛とは思えなかった。
「駅員を呼んできます、もう少し我慢してください。陽葵、この人のそばにいてやってくれ」
尚登に言われ、陽葵はうんうんと頷き男性の傍らにしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか」
見た目にも尚登との会話を聞いても大丈夫そうではないが、思わず聞いていた。男性はうーと呻き無理っすと答える。
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