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この寒空に汗をかいては体が冷えると陽葵は自分のタオルハンカチを出し、男性の首やこめかみを拭った。男性はうーん、うーんと言いながらも視線だけを上げすみませんと詫びる。
さすがに異常事態が判ったのか、通りすがりの女性がふたり、足を止め何か手伝えることはと聞いてくれた。
「……ありがとう……ございます……」
苦し気な中でも男性が礼を述べる、女性三人はいいですよ、気にしないでと気遣い、介抱を続けた。
まもなく尚登が駅員をふたり連れて戻ってくる、男性の姿を確認した駅員は、もう大丈夫だから離れていい旨を尚登たちに伝える。
幸い自分たちが乗ろうとしていた京浜東北線の電車が入線してきた、同じホームに同じ下り方面の山手線と京浜東北線が停まるホームだ。尚登は素直に挨拶をしてその電車に乗り込んだ、女性ふたりも心配そうにしながらも改札へ続く階段へを向かう。
「大きな病気とかじゃないといいな」
閉まるドアの向こうを心配そうに見る、駅員に声を掛けられても男性は体を起こさなかった。
「あんなに苦しそうだから、心配だね」
「まあ、男は大げさだから。ちょっとの痛みでもめっちゃ痛がる」
サバイバルゲームの会場でもそうだ、同じような程度の怪我でも女性は毅然と手当をするが、男は痛い痛いと大騒ぎする。それでも尚登は心配そうに、見えなくなるまで男性を見ていた。
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