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「家のことはどうでもいいので、いつもどおりにやってくだされば」
尚登の返答に、もう社交辞令はやめたのだと陽葵は内心呆れる。
「菊田はベテランで十分に結婚式の知識があり、ホテルの事も熟知しております。なんなりとお申し付けください、きっとお役に立つと思います」
支配人はにこやかに紹介したが、
「まあ嫌ですわ、まるで私がお局みたいじゃないですか」
菊田は軽やかながら応戦した。
だが事実、齢35、ブライダル専門の学校を卒業してから15年、ずっと玉響館で働いていた。古参中の古参で、責任者の役職も。
自身は結婚に縁がなく独身を貫く。人様から幸せを分けてもらっていると笑顔で言うが、その実は面白くない。結婚願望がないわけではなく、恋人がいた頃もあるが赤の他人を見送るばかりなのだ。
たくさんのカップルを見るうちに、妙な審美眼がついてしまった。
(末吉の跡取り息子かー。文句ない美形ねー、おまけに高身長、高学歴、高収入、世の中にこんな男がまだいたのか! って感じ。はあ、目の保養、心のオアシスー)
口では世間話に花を咲かせながら考えていた。
(それに引き換え相手の女は、なんともまあ、ちんけな、みすぼらしい)
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