⑤結婚準備、始動

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心の中でだけなら勝手だと、慣れた嘘の笑顔の下で思う。一瞬にして頭の先からつま先までを観察し査定していた。 (私の方がよほど似合うんじゃない? なーんてね。年上の女なんか興味ないか、きっと引く手数多よね、見た目も家柄も申し分ないんだもん。え、そんな中からこんな女を選んだの? ちょっと見る目、なくない?) 何気なく手元の資料を見た、国井から聞いている大雑把な情報だ。そこにふたりのプロフィールも書かれている、陽葵が都内の有名大学を出て末吉商事に入ったことが記されている、なるほどね、とわずかに嫉妬が生まれた。 「今ならバンケットルームがご覧になれます、よかったら少し覗いてみますか?」 営業スマイルに悪意を隠しふたりをいざなった、あと一時間ほどで披露宴が始まる会場がある、覗くだけなら可能だと菊田は先導して歩き出す。 「当館ですと千人規模のバンケットルームは2つしかないので、そのどちらかになります」 エレベーターで1つ上の階へ移動した、まず最初に案内したのは宴会の準備が進んでいる部屋だ。 「こちらは白を基調とした神殿をイメージしたお部屋です。御覧の通り、奥の広い壁側に新郎新婦が座りますので、比較的参列者との距離が近く感じると思います」 スタッフが甲斐甲斐しく動き回る部屋をふたりは覗き込んだ。彫刻のある壁や天井は石に見えるよう加工され、ギリシャの神殿と思える。部屋は横手方向に長く、メインの出入り口から高砂までが近い。大きな窓から注ぐ光で室内が眩しく見えた。
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