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最後は菊田と支配人にエントランスの外まで見送られてホテルを後にした、ホテルのお菓子のお土産付きである。
今日ものんびりと浜松町駅まで歩いてやってきた、ホームに上がり京浜東北線側へ視線を向けた時。
「あの!」
男性の声がかかり、ふたり揃って足を止めた。
「すみません! 先週、ここで倒れた者です!」
深々と頭を下げた男性が顔を上げた時、ようやくふたりは思い当たり、陽葵は「あ」と声を上げていた。
「お元気になられたんですね」
陽葵が声をかければ男性は「はい」と嬉しそうに応える。
「恥ずかしながら食べ過ぎによる消化不良でした」
男性は恥ずかし気に頭を掻きながら教えてくれた、中華街で友人と飲食をした帰りだったという。むしろ大病ではなく陽葵は安心した。
「そんなことをわざわざ言うために待っていたんですか」
尚登はむしろ不機嫌に聞く、男性はなおも笑顔で答えた。
「はい、とてもありがたかったですし、お礼をしたいと思ったんですけど駅員のかたもおふたりの名前も聞いていないと言っていて、もし逢えたらと思って待ってました!」
「そうでしたか。俺たちは別に駅員を呼んだだけですしお気になさらず。原因が判ったのも安心しました。ではこれで」
尚登は冷たいとも思える声で言う、陽葵の肩に手を回し男性に背を向けたが。
「あの、お礼に、お食事とか……!」
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