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試着も数十はしたというが、色が、形が、と文句ばかりで落としどころがないのだ。ようやくこれと思うデザインがあってもサイズがなく、本人的にはかなり妥協して一旦はサロンのものに決めたのに、結局は持ち込みにするとなったのは先々週だったような気がする。どこかの王族が着るような十メートルものドレーンがいいのと自慢していたが、それを辞めたのだ。
「……ばーか、あんたが何着たって一緒よ。誰も見ちゃいないんだし」
呟き画面を消した、きっと持ち込み料を払うのが嫌になったに違いないと勝手に思う。
「料理も最低ランクで、テーブルコーディネートもみっともないくらいに質素で。玉響館で式を挙げることだけをステータスにしやがってさあ、庶民がっ」
鼻で笑い缶チューハイをあおり飲む、その時ふと尚登の事を思い出した、花嫁の好きにしろと言った美丈夫だ。
(そうよ、どうせなら金に糸目をつけないですってくらいなら、こっちもやりがいがあんのよ)
今のむしゃくしゃした気持ちを尚登に慰めてもらいたかった、尚登の声を聞けば元気になれると勝手に思う。
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